マクドナルドでみる、宗派の違いがもたらす問題

自分はかねてより、ユダヤ人の多様性に関心を持っています。一概に「ユダヤ人」と言っても、教えに忠実で敬虔なユダヤ教徒もいれば、そうでない人もいて、非常に多様なのです。今回はそういった、敬虔な信者とそうでない人々の「綱引き」が社会に与える影響について触れたいと思います。

 

今回はイスラエルにおけるマクドナルドの出店について取り上げます。

1995年、マクドナルドのエルサレム1号店が開店した時のこと。その日を心待ちにしていた非正統派のユダヤ人がずらりと行列を作り、シェイクやチーズバーガーなどを買い求めました。しかし超正統派の方は、コシェル(※1)でないファストフードが聖都エルサレムに入ってきたことに対しひどく怒り、デモを行いました。数ヶ月後には、マクドナルドの店に放火する者まで現れたとか。

さらにマクドナルドは、安息日(※2)に10代のユダヤ人を働かせたという理由で、2万ドル以上という高い罰金を払うことにもなりました。おまけに、豚肉を使っているからという理由で、人気商品のエッグマックマフィンの販売が禁じられたり、ハンバーガーの値段も高めに設定せざるを得なくなっています(※3)。

マクドナルドの問題が特に浮き彫りになったのは、2002年、エルサレムの新しいバスターミナルに新規出店が決まった時でした。

「その店がコシェルでなかったら、大規模なデモを仕掛ける」とハレディム(超正統派)が脅しをかけたのです。当時マクドナルドはその要求をのみましたが、事態はそれだけでは終わりませんでした。

エルサレムの宗教評議会から「コシェルの店舗の店名を”マックコシェル”に変えるよう要求されたのです。さすがにこの要求はのめない、とマクドナルドが拒否すると、宗教協議会側はコシェルの認定証を発行しないという姿勢をみせました。そのバスターミナルで飲食店を営業するためには、その認定が必要なため、マクドナルドは法的措置を訴えることを決めました。その結果、エルサレムの簡易裁判所はマクドナルドの申し出を認めたのです。

余談ですが、今年3月にイスラエルを旅行した時、テルアビブにあるマクドナルドに行きました(しかも滞在中最後の食事で!)。コシェル認定の店舗にはKOSHERと明記されていたのですが、自分が入ったお店は普通のマクドナルドだったようです。せっかくならコシェルのハンバーガーを食べてみればよかったと思いますが、イスラエルの友人(世俗派)は「おいしくないからやめた方がいい」とのこと。確かに、普通のハンバーガーを食べ慣れている身としては、物足りない味だと感じるのかもしれません。

 

イスラエルにおけるコシェル認定は非常に重要な位置にあります。イスラエルの食品メーカー、学校、病院、結婚式場なども、たいていはコシェル認定機関の検査を受け、キッチンがユダヤ教の食事規定にきちんと従っていることを証明してもらいます。

また、食事規定以外にも、「安息日の間は営業してはならない」「(主にホテルなどで)クリスマスや新年のパーティーなどユダヤ教以外の行事に場所を提供してはならない」などという規定もあったり、その他にも節度も重要視されます。例えば、肌の露出度が大きいベリーダンスを黙認したせいで、結婚式場がコシェル認定の一時停止という処分を受けたこともあったとか。

このような様々な規定は、敬虔なユダヤ教徒にとっては当たり前のことでしょうが、それ以外の方にとっては不満を大きくする元になるのではないでしょうか。例えば、超正統派はエルサレムの人口の3分の1を占めますが、市税の1割以下しか負担していません。これは、非正統派の納税者1人が、超正統派の家庭を1~3家族分養っているという計算になります。

国内のユダヤ教徒の、信仰度合いが人によって大きく異なるだめ、法案に対する待遇だけでなく意識もそれぞれ異なってきます。そうしたずれによる衝突が、今日のイスラエル社会で表面化していると感じる場面もあったりして、色々と考えさせられます。そのようなずれは何十年も何百年も前から存在していたでしょうが、それぞれが穏やかに共存できる社会つくりがこれから課題になるのでは、と感じたりもしています。

 

【訳注】

※1 コシェル : ユダヤ教の律法で定められている食物規定。例えば、肉ならば、ひずめが割れてなくて反芻しないものは食べてはならない(豚、ウサギ、ラクダなどは不可)し、魚だと鱗とヒレをもつ魚以外は食べてはならない、など。

※2 安息日(シャバット) : 金曜の日没から土曜の日没まで続く、ユダヤ教で定められた休日。この期間には、いかなる労働も行なわないことが求められる。

※3 イスラエルの法律では、コシェルでない肉の輸入が禁じられているため、イスラエルのマクドナルドは、アルゼンチンやウルグアイから買い付けている牛肉の価格がアメリカのマクドナルドよりも4割も高い。

 

 

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