【吉田 恵 -Megumi Yoshida】
慶応義塾大学 法学研究科 ー大学院生
-Profile
2010年国際基督教大学卒業 2007年、カルフォルニア大学留学
2007年、中東学生会議の活動の一貫としてイスラエルを訪れ、それ以来2009年、2010年、2011年の計4回イスラエルを訪れる。
現在、慶応義塾大学法学研究科において、イスラエル社会の多様性を専門に研究している。
日本イスラエル学生会議メンバー
「イスラエル人も、同じ人間」
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▶初めてのイスラエル
小林:吉田さん、よろしくお願いします。イスラエルに4回も行かれて、大学院でもイスラエルを専門に研究されているということで、より踏み入った詳しい話が聞けると嬉しいです。最初は、いつイスラエルを訪れたんですか?
吉田:最初は、2007年、国際基督教大学(ICU)の3年生の時の夏ですね。
小林:イスラエルに行こうと思ったきっかけは何だったんですか?
吉田:それが、よく分からないっていうのが本音で(笑)。ICUの友達が、中東学生会議の会長をやっていて、彼女に「夏、行くよね?」みたいな感じで誘われて(笑)。最初はお金も微妙だし、興味はあるけど、危なくないのかな、と迷ってました。 危なくないと説明されても、やっぱり中東だし、怖いイメージが抜けきらなくて。
小林:確かに、そういう先入観はありますよね。吉田さんが、実際行く決断をしたのは、なぜですか?
吉田:最初は迷っていたんだけど、迷っているうちに、航空券が埋まってきて取りづらくなっちゃって。そうすると、逆に行きたくなって(笑)。それで、参加しようと決心しました。中東学生会議っていうのは、アラブ周辺の6カ国を1ヶ月かけて回るんだけど、私はヨルダンとイスラエルだけ参加しました。10日間くらいはイスラエルに行きましたよ。
小林:学生会議の活動は何をしたんですか?
吉 田:向こうの大学にも、日本イスラエル学生会議みたいなのがあって。私たちの時はヘブライ大学の学生と会議をしたりして、交流したり。イスラエル人は、結構人懐っこくて、すぐに打ち解けられたよ。その時知り合った学生とは、今でもやりとりをしたりしたりもしてて。2回目以降行った時は、泊めてもらったりしたり。
小林:そうなんですか。僕が持っていた厳格なイメージとは、また違う人もいるんですね。それですぐにイスラエルが好きになった、と?
吉田:それが、そうでもなくて(笑)。やっぱり、 最初あった危ないというイメージはだんだんなくなったけど、まだやっぱり偏見だったり不信感が抜けきらなくて。興味と恐怖が半分半分かなぁ。このときは、イスラエルに絶対また行きたいと強く思ったわけではなかったですね。
▶アメリカ留学がイスラエルに興味を持ったきっかけ
小林:最初イスラエルに訪れた後も、そこまで興味は持たなかった、と。でも、結局その後3回も行かれているんですよね。何がそこまでイスラエルに興味を持ったきっかけだったんですか?
吉田:実は、アメリカに留学していたのが、もっとイスラエルに興味を持つきっかけだったんです。ICUは、交換留学が盛んで、多くの学生は3年生の秋から4年生の夏まで留学するんだけどね。私も、3年生の秋、最初イスラエルに行ってからすぐにアメリカのカルフォルニア大学に1年間留学しました。そこにいる時に、シオニズム(各地にちらばっているユダヤ人が、シオン 【イスラエル、パレスチナの地域のこと】に帰ろうとする運動のこと。シオニズムの記事はこちら)に興味を持って。それで、イスラエルにめちゃめちゃ行きたくなったの!(笑)
小林:アメリカ留学がきっかけだったんですか!それはまた意外なところですね。もっと詳しく教えてください。
吉田:アメリカに行った時に、丁度、「イスラエルの歴史」っていう授業があったからそれを受講したんだよね。最初は、「先生の言ってることに、惑わされないぞ!」って意気込んで授業を受けていたんだけどね(笑)。聞いているうちに、イスラエル 人っていっても色々だし、シオニズムに対する考えも人それぞれなんだ、って思わされて。シオニズムと言ってもいろいろな種類があるんだなっていうのが目からうろこだったの。自分の知らない世界もあるんだなぁと、思って、もっとそういう世界を知りたいって思ったんだよね。
小林:最初は、そんな姿勢で授業を受けていたのに不思議ですね(笑)。
吉田:本当に。そもそも、大学にユダヤ人も多くて、イスラエルの映画を上映するムービーナイトや、シャバットディナー(シャバットとは、ユダヤ教の安息日のこと)のようなイベントもたくさんあって。イスラエルの映画は面白いよ。そういうことからも、だんだんイスラエルっていう国や人に惹かれていったんだよね。
アメリカ、サンフランシスコの町並み
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▶行く度に印象が変わる国
小林:2回目以降は、いつイスラエルに行ったんですか?
吉田:2回目は、アメリカ留学から帰ってきた後、 1年間お金を貯めて、2009年の夏に行ったよ。その時は1ヶ月ちょっといたかな。最初の1週間と最後の1週間は友達に会ったり、観光をしたり。間の3週間は、イスラエルの現地の学校の短期中東研究みたいな講座を取っていたよ。
小林:なるほど。最初の1週間はどうしていたんですか?
吉田:最初は、前回、中東学生会議で来た時と違って一人だし、何も分からないから、とりあえず安いユースホステルみたいなところに泊まったんだけど。そしたら、現地の友達に会ったときに、「なんで、家に泊まりにこないの?!」って言われて。あぁ、こういうの気楽に頼んでいいんだ、ってびっくりした(笑)。
小林:いい友達に出会えてよかったですね。
吉田:本当、いい人たちだよ。私は、 大学院でイスラエルを専門に研究しているけど、イスラエルに行くのは、研究のネタが入るからというより、イスラエル人が好きだからなんだ。アメリカの大学にいた時は、初めての留学っていうのもあったけど、特にヨーロッパからの留学生の友達をつくるのは難しかった。文化や遊び方も違うしね。でも、イスラエル人は本当に人懐っこくて話しやすい。すぐに友達になれたよ。イスラエル人の友達といってもいろんなタイプの友達がいるけどね。ユダヤ人といっても、それぞ れの友達のもともとの出身地が違うから、家に招かれたときにもてなされる料理が全然違うのがすごいおもしろいよ。親が厳格なユダヤ教徒でも、子供はそうでない人もいるし、逆に親がそうでなくても、子供が宗教に熱心な場合もあったりして。
小林:そうですね。やっぱり人との出会いって一番楽しいですよね。他に、イスラエルのどんなところが好きですか?
吉田:イスラエルの音楽も好き。ユダヤの伝統音楽もあれば、オリエンタルな感じのミズラフィーム音楽、それにロックやポップのアーティストもいて、みんなそれぞれ味があるよ。それから、イスラエル人の適当でいい加減なところも嫌いじゃないよ(笑)。
イスラエルの人々。2011年の夏のテルアビブでのデモのときの写真
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▶おすすめスポット:ツファット
小林:イスラエルに4回も行かれたということですが、もうほとんどの観光地は行かれたんですか?
吉田:ネゲブ砂漠とエイラット以外、観光地はほとんど制覇したかも(笑)。
小林:そうなんですか(笑)。その中で、吉田さんの一番のおすすめはどこですか ?
吉田:どこも、いい所だけど、ツファットって所が一番好きかな。山の上にある、スピリチャルな場所でね、宗教的なユダヤ人が大勢住んで いるんだけど。かわいい水色のシナゴーグ(集会所)があるんだよ。スファラディー系(スペインの意)っていう、地中海のあたり出身のユダヤ人のシナゴーグ で、だからそういう色合いらしいんだけど。シナゴーグの天井にも、かわいい絵がたくさんあって、すごく素敵な雰囲気の街なんだよね。エルサレムと並ぶ、4 大聖都のひとつで、今でも人が住んでいて、そのシナゴーグも使われているんだよ。
小林:へぇー。4大聖都のひとつなんですか!それはぜひとも行かなければ!(笑)
吉田:すっごくおすすめだよ。カバラー(ユダヤ教神秘主義)の中心地だから、カバラー占いとかもあるし。すごく神秘的な場所だよ。
小林:ツファットのことは、どうやって知ったんですか?
吉 田:私も、最初は全然知らなかったんだけど、2回目にイスラエルに行った時に、学校に事務の先生の娘さんが来ていて。その子に、イスラエルでどこがおすすめ?って聞いたら、迷わず「ツファット!」って言ったの。最初は、「どこそれ?」って思ったんだけど、12歳の女の子が勧めるんだから、これは行かなきゃ なって思って。結局行ったのは、2011年、4回目イスラエルに行ったときなんだけどね(笑)。
ツファットの町並み
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▶奥が深い場所:キブツ
小林:他にはどんなところに行きましたか?
吉田:いろんな所に行ったよ。アッコーっていうアラブ人の街や、ロ ーシュハニクラっていうレバノン国境の近くだったり。小林くんが留学するハイファにも行ったよ。バハイ庭園とか有名だよね。あとは、キブツ(ユダヤ人特有の、共同体のようなもの)にも行ったよ。
小林:キブツにも行かれたんですか。個人的にすごく興味があるのですが、どんなところなんですか?
吉田:うーん、何と言うか、ユートピアじゃないけど、すっごくのんびりした雰囲気。キブツの中はゆっくり時間が流れていて、本当にリラックスできるよ。
小林:やっぱり、キブツでは、その中で農業をして、自給自足の生活をみんなでしているという感じなんですか?
吉田:それも、キブツによって違うけど、今は自給自足だけで生活してるわけじゃないと思うよ。ちゃんと調べてみ ないとわからないけど。。普通にキブツの外に働きに出ている人もいるし、野菜だけじゃなくて、加工肉を作っているキブツもあるよ。中にいる人も、子供からお年寄りまでいるんだけど。大学でも、キブツ出身の人もいると思うから、話を聞いてみると面白いよ。
小林:うーん、興味深いですね。
吉田:キブツは結構奥が深くて、研究対象としても、面白いと思うよ。
小林:そうなんですね。僕も、早く向こうに行って、直接体験したいです。
吉田:ちなみに、キブツには、みんなで食べる食堂みたいなのがあるんだけど、そこはあんまり美味しくなかったよ(笑)。なんというか、独特の味だった(笑)。
キブツの様子
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▶イスラエル人と日本人の性格は相性がいい?!
小林:吉田さんが、最初、先入観を持っていたように、やっぱり日本ではまだまだイスラエルについて、正しく知られていないと思うんです。どうすれば、もっと日本人がイスラエルに興味を持ってくれると思いますか?
吉田:うーん、難しいけど…。向こうの人も普通の人間なんだ、って思えるきっかけがあれば、一番いいかなぁ。私も、実際にイスラエルに行ってみて、イスラエル人と友 達になって、初めて先入観がなくなったし。イスラエル人と一口に言っても、人によって全然違う。その点、私たちと変わらない人間なんだよね。戦争とかのイメージばっかりだけど、日常生活をおくる普通の人々が住んでる場所でもあるからね。
小林:そうですね。やっぱり直接、向こうの人と友達になるのが一番ですね。
吉 田:うん。音楽でも、映画でも、きっかけはなんでもいいから、向こうの人に興味を持てればいいんだけどね。日本人にとっつきやすいものがあればいいんだけ ど。イスラエルの曲は、日本でも流行るかもしれないし、医療とかハイテク技術で、イスラエルと日本の企業がタイアップできたら面白いかもね。それと、イス ラエル人の性格は、日本人と相性がいいかも。イスラエル 人がないものを、日本人は持っていると思うし、日本人にないものをイスラエル人は持っている気がする。イスラエルと日本は、うまくパズルのピースが合うみ たいに、一致できるポテンシャルがあると思うよ。
小林:イスラエル人は、日本人にないものを持っている。逆に言うと、日本人はイスラエル人にないものを持っているってことですね。お互いの関係がもっと近くなって、お互いに協力できる関係になれたらいいですね。
吉田:そうだね。小林くんも、いろんな人の話を聞いて、なるほど、って思ってるだろうけど、あくまでこれは、その人その人の体験で、私の話も私の体験であって、小林くんの体験じゃない。ひとり一人、行く場所や環境や、会う人も違う。だから、ひとり一人によって、 感じ方も違うと思うんだ。私も、イスラエルに行く前に、いろんな人の体験談を参考に聞いたんだけど、自分に同じことは起こらなかったし、逆に自分にしか体験できなかったこともあった。聞いた話がすべてじゃないってことを、心に留めておいてね。
小林:はい。やっぱり、ひとり一人、出会う人、感じるもの、得るもの、全部違うんですね。そのことを肝に命じておきます。日本で、もっと個人的にイスラエルに興味を持ってくれる人が増えると嬉しいですね。今日はありがとうございました。
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